髪結いの亭主

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僕の好きな映画のベスト5には必ず入れたい。それが「髪結いの亭主」。

とか言うけど、間違いなく好き嫌いがばきばきに分かれるタイプ(主人公のふがいなさに不快になる人までいるらしいよ)

さてパトリス・ルコント監督なんですが、この監督は「仕立て屋の恋」とかいつも愛の静かな狂気を描きます。
なんとも切ない小さな狂気。愛し愛されるのということは小さな狂気なんですかな。

それはかならず終わりがあるからです。

ストーリーを簡単に、ほんと簡単に追いますと、
少年のころ妖艶な美容師さんをみて以来、床屋さんフェチになってしまった主人公アントワーヌは将来「髪結いの亭主」になると決心するわけです。
すごい将来設計だ。
何言ってやがる!と父親にきつくせっかんされるけど、性癖は治らず。

そいでかなりいい年になってついに見つけるわけですな、妖艶な床屋さん。マチルド役のアンナ・ガリエナすごくいいです。妖艶で。

がんばればなんとかなるわけですね。
そのおっさんはまんまと若く妖艶な髪結いの女と結婚して、ヒモのようになるわけです。ヒモようなっていうか完璧に働いてません。バリ3でヒモです。彼は至福です。ここは彼の天国。なんせいっつも美しい女房が客の髪をちょきちょきしてるところを眺めていられるわけです。三つ子のたましいです。
そして美しき髪結いの奥さん、マチルドは過去を抱えています。この映画では一切その過去はみせない。ただ家族がいないとだけ結婚式では説明されます。
「私には過去がないの」
彼女はひとときも離れない(働かない)彼こそが、彼女の孤独をうめる唯一の男だったの。どんなにあほでも。なんせ彼は自分を見つめる事だけが彼の生活なんだから。
ヒモ男を愛してしまう心理ってこうかもしれません。ここまでのプロのヒモはおるまいが。

二人はどこへも行きません。旅行なんてしたくない。この床屋の中だけが二人の世界です。そして二人は幸せなのです。

あ、一回外へ出た。養老院にお見舞いに。

そこでアントワーヌはマチルドの肩をずうっと抱いています。老いや死の気配に近づけないかのように。ぎゅー

お客さんの話。
客があわただしく入ってくる。その後にその客の妻が来て男を殴る。
別の客。ぼさぼさの男の子。髪を切らせる母親は言う。「この子は養子なの」
そして二人に子供がいないことを知ると「養子を迎えるのだけはやめなさい」といって出ていく。
マチルドは言います。
ひとつだけお願いがあるの
愛しているふりだけは絶対にしないで
幸せというものはどうしようもない不安をいつも抱えています。
幸せが強ければ強いほど、幸せすぎるほど、言いようのない不安から逃れられなくなるのでしょうか。終わりなきものはない。そしてそれが見えてしまう。

そうしてこのゆるやかに流れていた愛のお話は唐突に終わるのです。

僕はこの映画を学生のころ、その時付き合っていた年上の女性に押し付けられるように見せられました。けっこう嫌々。その頃はフランス映画は僕にはかったるかったのね。ヤングマンだったからね。

でも見たら衝撃だったな。

それ以来僕は何度となくこれを見て、どうしてもあの奇妙なベリーダンス(?)で涙してしまうのです。

しかしその涙は歳をとるごとに意味合いが少しづつ変わった気がします。

あの頃、二十歳そこそこの頃では幸せと不安の相関関係なんてよくわかっていなかった。ただただ不条理な死について泣いていたんだけれど、今はわかる。かもしれない。
幸せの周りには不安や終わりがいつもあるのさ。小箱に閉じ込めておけるかもしれない、そんな幻想も。

僕はこれを悲劇とも喜劇とも思わない。とある日常だ。
なんせ幸せはどこかに収れんしてくのだ。
これがハッピーエンドと言えるかはわからないけれど、愛の永遠さというのはこういうことかもしれない、なんて思っている。

ところでルコント作品はみんな好きなんですが「列車に乗った男」も見てほしいなぁ。

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