頭の中はゾンビ!ゾンビ!ゾンビだらけ!
クランベリーズはアイルランドのバンド。僕はボーカルのドロレス・オリオーダンの歌い方や声が大好きなのだが、偏見かもしれないけどいかにもアイルランドという感じだ。
クランベリーズと言えば何かのCMで使われた「Dreams」が有名でそれも大好きなのだけど、本日はこっちがドロレスの本骨頂じゃないかなと思うハードでヘビーな曲。
クランベリーズは甘美でポップな初期の大ヒット曲「Dreams」や「Linger」のイメージが強いが、僕はクランベリーズのロック寄りの歌が好きだ。一番好きでよく聴いたアルバムは『Bury the Hatchet』。
そのアルバムからじゃないが、とてもヘビーなこの曲「Zombie」は僕のオールタイムベスト100に入っている。甘くやわらかなドロレスもいいが、本質はこの魂からの叫びじゃないかと思う。
アイルランドの歌手はなにか独特だ。なんとなくアイリッシュな歌い方というか歌声を持っている。
シネイド・オコナー、エンヤ、U2のボノ、みな裏声がまざったり危うげさがある印象的なシンガーだ。
その印象的な歌声がこの三人が好きなところだけれども、もう一つこの3人の楽曲にある共通点がある。
とても社会的な題材をとりあげるということだ。それはアイルランドという国の地勢学的な複雑さ、危うさ、北アイルランド紛争による部分が大きいだろう。
この「Zombie」と言う曲は、北アイルランド紛争におけるIRAの爆弾テロという暴力(イギリスによる暴力も含むのかもしれない)、暴力によって傷つき消えていく命があることに対しての怒りだ。
北アイルランド紛争は民族紛争であるが、そもそもはキリスト教のカトリックとプロテスタントの宗教紛争だ。
日本人の僕にはその宗教的な対立というのがちゃんとは理解できないが、そこで起こる暴力と守られない命については「間違っている」と心から思う。
IRAはドロレスの母国、アイルランドの勢力だ。祖国の独立性のための暴力、そこに彼女の葛藤や矛盾もあると思う。
この曲を書かせた直接的な出来事は1993年に英国ウォリントンで起きたIRAによる爆破事件。そのテロによって3歳の子供が死に、重傷を負った10歳の男の子も回復の見込みがなく生命維持装置を外されたそうだ。
でもその悲惨な出来事はやはり遠いヨーロッパの出来事、どこか他人事だ。
それはアイルランドやイギリスの人にもそういうところはあるのだろう。当事者、身内がまきこまれなければやはり他人事。
日本で起こる災害や事件をテレビで見ている僕らも同じだ。
そしてこの歌はその見過ごすことへの怒りも歌っている。
2018年の1月15日、ドロレス死去のニュースが流れた。とても驚いた。
まだぜんぜん若いし、再結成したクランベリーズが新しいアルバムを作っているというのをどこかで読んでいたからだ。
それに彼女はとてもパワフルで健康的だとかってに思い込んでいた。
死因は正確にはわからないが「急性アルコール中毒で泥酔した事による溺死」
その声と同じように繊細な方だったのかもしれない。
『Zombie』
Another head hangs lowly
Child is slowly taken
And the violence caused such silence
Who are we mistaken?
またうなだれて
子供がゆっくりと連れて行かれる
そして暴力がこんな沈黙を引き起こし
私たちは誰?間違っている
But you see, it’s not me, it’s not my family
In your head, in your head they are fighting
With their tanks and their bombs
And their bombs and their guns
In your head, in your head, they are crying
でもねそれは私のことじゃなく私の家族のことでもない
あなたの頭の中、頭の中で彼らは戦っている
戦車と爆弾
そして爆弾と銃
あなたの頭の中、頭の中で彼らは泣いている
In your head, in your head
Zombie, zombie, zombie
Hey, hey, hey. What’s in your head
In your head
Zombie, zombie, zombie?
Hey, hey, hey, hey, oh, dou, dou, dou, dou, dou…
あなたの頭の中、頭の中は
ゾンビ、ゾンビ、ゾンビだらけよ
ねえねえあなたの頭の中は?
頭の中はゾンビだらけじゃないの?
Another mother’s breakin’
Heart is taking over
When the violence causes silence,
We must be mistaken
また母親たちの絶望に
打ちひしがれた心が広がる
暴力が沈黙をもたらすなら
私たちは間違いを犯している
It’s the same old theme since nineteen-sixteen
In your head, in your head they’re still fighting
With their tanks and their bombs
And their bombs and their guns
In your head, in your head, they are dying
何も変わっていない1916年から
あなたの頭の中、頭の中はずうっと戦っている
戦車と爆弾
そして爆弾と銃
あなたの頭の中、頭の中で彼らは死んでいる
In your head, in your head
Zombie, zombie, zombie
Hey, hey, hey. What’s in your head
In your head
Zombie, zombie, zombie?
あなたの頭の中、頭の中は
ゾンビ、ゾンビ、ゾンビだらけよ
ねえねえあなたの頭の中は?
頭の中はゾンビだらけじゃないの?
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ドロレスの訃報を機にまたこの曲が取り上げられた。その時、先ほど書いた1993年の爆破事件で12歳の息子を亡くした父親がこの曲があの事件を題材に誕生したことを初めて知ったという。
彼や亡くなった息子さんはイギリス人、そしてドロレスはIRAと同じアイルランド人だ。そこにはやはり複雑な感情があると思う。
彼はドロレスを追悼して「アイルランドのバンドによるこの歌詞は素晴らしく、とてもリアルだった」と感謝の意を表した、
1999年のライブ映像を。
こちらは「Dreamus」
ほんとに独特な魅力をもったボーカルだった。バンドもほんと好きだった。
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