1972年に実際に起きたウルグアイ空軍機571便の墜落事故を基にした1993年のアメリカ映画。
実話であるし、さらに生存のための人肉食などかなりテーマとしては重い。
重いはずだが、この映画ではかなり重くなく(軽いとも言えないが)見ることができる。
それはセリフ回しであったり、若者の軽さであったり、人肉食をだいぶさらっと(実際は72日間も他に食料が何もないところで生き延びたのだからごっつヘビーだったはずだが)描いているなどのためである。
ストーリー以下ネタバレ、つうかストーりーはわかるだろ。飛行機事故⇒生還だ。
ウルグアイのカトリック系の高校のラグビー部員とその家族など関係者が乗った空軍機が、チリでの試合の為アンデス山脈を越えようとして事故にあう。悪天候のため操縦を誤り尾根に激突したのだ。
飛行機は前方と後方に分断され高度4200メートルの山中に墜落。45人が乗っていたがその時点での生存者は28名。
周りは人里もはるか遠く、しかも雪と氷に覆われた世界。生還できる確率はかなりきびしい。
まずこの高校生たち。事故前はとても品行方正とはいえず、他の乗客にも迷惑をかけててイラつくんだこれが。
まぁその若気のいたりってのが、生命力でもあり、のちに生き残る条件であったのだろうが。
価値観にまだ縛られていない、ということが彼らを生き残らせたのか。
それにしても想像を絶する過酷さと絶望だろう。

・・・なんとなくあまり深刻に見えないってのが困ったもんだけど。さきほど書いたように若者の楽天的なところなのかもしれないが、氷点下の世界で食べ物もなく救助も絶望という場面ではちょっとリアリティを感じないなぁ。

まぁそうは言っても究極の選択(人肉食)のところはぞっとするし、考えさせられる。
生きるためにどうすればいいのか。生き残るうえでのタブーとはなにか。
そう考えるとこの映画の邦題の「生きてこそ」っていうのはなかなか素晴らしいタイトルじゃないか。
この映画はただサバイバル映画とかただのパニック映画とかとしてとらえると違うかもしれない。
青春群像劇であったり、生きる上の葛藤(宗教的なものも踏まえて)であったりそういう人間ドラマの面が強い。
特に印象に残ったのは、墜落時生き残った夫婦にエピソード。
もう食料は尽きているので、人肉を食べはじめている。しかし奥さんは飢えの中食べていない。なかなか食べられないよな。カトリック信者だしな。でも誰かが「これは聖餐だ」とも言ってたが、どうだろう。
そんな何日目かの夜に奥さんは「また子供が欲しい。(生きて)帰ったらつくりましょう」と旦那さんに言う。
しかし旦那は作れないという。人の肉を食べるというタブーをおかしてしまったから。そして彼女を気遣う。
「君は食べていないだろう」
奥さんもわかっている。このままでは餓死するしかなく生還は望めないと。
「わたしも明日は食べるわ」
究極の話である。
しかしこの夜、雪崩が起きる。
みんなが寝ている機体の中も大量の雪が流れてすべてを埋めてしまう。助かったものが懸命に埋まった人たちを掘り起こし救助しようとするが、無情にも奥さんのリリアーナ・メトル夫人は亡くなってしまう。明日はこなかった。
いやぁ俺旦那だったら頭おかしくなるよ。旦那さんは学生に叱咤されながら最後まで生き残る。
ちなみにこのメトル夫人を演じたのはイリーナ・ダグラスで「グレイス・オブ・マイ・ハート」で主役の女性シンガーをやってたけどよかったな。
もう一つのエピソード。ラグビー部のキャプテン、名前はアントニオ。彼は遺体を機外に運び出す指示をしたり、わずかな食べ物の管理をしたりとリーダーシップを発揮します。しかし少し空回り気味。
やがてアントニオに言わず食料をみんなで食べてしまい(救援隊が来ると思った)、食料が空になったのを見てアントニオ激怒。さらにラジオにより捜索が打ち切られたことを知ると絶望に打ちひしがれる。
そしてみなが人肉を食べて生き延びようとするなか、真面目な彼はその決断ができず弱っていきます。宗教的な葛藤も大きかったのだろう。徐々にみなから浮いていくアントニオ。もうリーダーではなくなっていく。
ある夜、焚火のおこしてみんな少しだけ和んだときに彼は言います。「俺が死んだら食べていい。許す」。笑いとともに皆とのわだかまりが溶けていきます。焚火っていいよね。
その夜更け、先ほどのメトル夫人の命を奪った雪崩で彼も命を落とす。やっぱりその後食べられたのだろうか。。
という過酷な話なのですが、この絶体絶命から生存者を救ったのが二人の若者ナンド・パラードとロベルト・カネッサ。
ナンド・パラードは墜落時に死にかけてて、息を吹き返して顔の腫れがひくまでイーサン・ホークだって気づかなかったよ。ああ彼が主役だった。

ナンド・パラードはもちろん実在の人物。この事故で母親は即死、妹は衰弱して彼の前でやはり死んでしまう。
ナンドは歩いて山を越え救援隊を連れてくるという。
どこまで行けばたどり着けるかもわからず無謀な話だ。しかしこのままでも皆死ぬことは間違いない。
渋るカネッサとティンティンを説き伏せ3人で出発した。
”必ーずここへ帰ってくるとー手を振る人に笑顔で応え”という宇宙戦艦ヤマト的旅立ち。
途中滑落するとか死にそうになりながらもたどり着いた山の頂。そこから見える景色は無情にもさらに連なる雪山、山、山。どこまでも人里の気配なし。
ナンド以外心折られます。カネッサは「戻る!むりむりむり!」と言いますが、ナンドは先へ進もうと。
「無駄だ!何もない!死ぬだけだ」
でもナンドは言う。「ここまで生き延びたのが奇跡なんだ。たとえ死ぬとしても歩きながら死のう!」
倒れるときは前へっていう猪木イズムを感じますね。
カネッサ、心を決めます。食料が足りなくなるのでティンティンは皆のところに帰して二人で再び歩きだします。
そして彼らは雪のない緑の場所まで降りてきたのです。そこのところはかなりはしょられた感じですが、着いたのだ!俺たちはやり遂げたのだ!
そして雪山の皆のところへヘリで迎えにいったのでした。という話。
アメリカ映画なのでなんともすっきりのタッチで描かれているが、撮りようによってはいろんな角度で作れる映画だろう。まぁそこはアメリカ映画なので。
映画としてはこれでもかっていうほど単純明快であったけれど、いろいろ考えさせる題材であった。
もう一度見たいかって言われたらもういいかも。印象は大変深いが、映画自体は何度もすまんが単純なんだもの。

映画は生存者の一人の回想インタビュー的に構成されているのだがそれがマルコビッチだった。
若者のなれのはて。



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