Pride (In The Name Of Love) / U2

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彼らは命を奪っても、誇りまでは奪うことはできなかった

中村哲(Tetsu・Nakamura)氏がアフガニスタンのジャララバードで銃撃に合い殺害された。
この12月4日、二日前のことだ。
彼はかの紛争地に赴き医療をおこない現地の人々を救ってきただけではなく、「飢えや渇きは医療では救えない」と自ら井戸を掘り、25.2kmもの用水路を作り、まさに生きる基盤を産み出した。

中村さんは平成20年の参院の外交防衛委員会に現地参考人として呼ばれ、自衛隊派遣について
「治安はかえって悪化するということは断言したいと思います。これは、米軍、NATO軍も治安改善ということを標榜いたしましてこの六年間活動を続けた結末が今だ。これ以上日本が、軍服を着た自衛隊が中に入っていくと、これは日本国民にとってためにならないことが起こるであろうというのは、私は予言者ではありませんけれども断言いたします」
と言っている。
現地に長く長く滞在してその目で見て感じてきた結論は自衛隊派遣は有害無益であると。

しかし彼はその10年後、このように紛争によって殺されたわけだ。
それでも彼は
「人殺しをしてはいけない、人殺し部隊を送ってはいけない、軍隊と名前の付くものを送ってはいけない、これが復興のかなめの一つではないかと私は信じております」
と繰り返すと思う。

U2は13年ぶりに日本公演を行っていた。中村哲医師が亡くなったその翌日さいたまスーパーアリーナで「偉大で寛大な人間だった」と中村氏を悼んだ。そして観衆にスマホのライトを灯すことを呼びかけ、やはり非暴力を掲げ暴力によって命を奪われたマーチン・ルーサー・キングJr.牧師に捧げた歌『Pride』を演った。

One man come in the name of love
One man come and go
一人の男が愛の名のもとに現れる
一人の男が現れ去っていく

”愛”という言葉を聞くと、日本人の僕たちは何か少し照れてしまう。
愛しているということがなんだかニガテだ。
でも人々を善いベクトルにて結びつけているものは”愛”としか呼びようがなく、中村哲氏が過酷なアフガニスタンにてその人生を捧げたのも”愛”以外の言葉で説明することは困難だ。
愛でなければ何が人を生かしているのだろうか。愛がなければ何を目的に人は生きようとできるのか。

In the name of love
What more in the name of love?
愛という名のもとに
愛以上のものが他にあるのか?

Free at last, they took your life
They could not take your pride
ついに自由、彼らはあなたの命を奪ったが
あなたのプライドは奪えなかった

「ついに自由を得た」はキング牧師が演説の締めくくりに使い、彼の墓標にも刻まれている言葉。

U2は政治や宗教、差別、貧困などを取り上げたため様々な圧力や脅迫を受けてきた。
この「プライド」もキング牧師を讃える歌なので、人種差別主義者などからアメリカで演奏したら暗殺するとの脅迫状が届いていた。

アメリカ南部のスタジアムのライブが決行することになった。警察にも殺害予告のタレコミがあったため、ものものしい警備。実際スタジアムの入り口では銃がいくつも押収されていた。
何度も「プライド」はライブのセットリストから外そうという話し合いがあったが、ボノは歌うことを決断した。

とは言っても恐ろしい。銃口が客席のどこから狙っているか。キング牧師やジョン・レノンを思い浮かべてしまうよね。
この曲を歌いながらボノはとうとううずくまってしまった。
曲の後半になって恐る恐る彼が目を開くと、そこには立ちはだかる男の姿が。ベースのアダムボノの盾となるべく彼と観客席の前に立って演奏していたんだ。
「あの夜あそこで見たヤツの背中を、俺は一生忘れない」後にボノは語った。
アダムボノの絆はアルコール依存症で苦しむアダムに向けた歌「Drowning Man」でも強く感じるが、鳥肌が立ちそうな話だ。

プライド”という言葉は日本ではネガティブに用いられることがある。「あいつやたらプライドが高い」とかね。”愛”と同じく青臭く感じるのか。
でもやっぱりプライドによって人は生きる指標、目的を持ち、愛はそれを支え照らしプライドそのものにもなるものだ、と僕は真顔で思っている。

中村哲氏を心から悼みます。

コメント

  1. […] そしてもう一つの思いは、以前「Pride」のとこでも書いたのだけど、この曲はU2の不動のベーシストであるアダム・クレイトンを救おうとする歌であった。 アダムはアルコール依存症に […]

  2. Really Got Me より:

    […] そしてもう一つの思いは、以前「Pride」のとこでも書いたのだけど、この曲はU2の不動のベーシストであるアダム・クレイトンを救おうとする歌であった。 アダムはアルコール依存症に […]

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